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月間ろうきん1月号掲載
骨休めのお正月
香港を訪れるのなら、なんといっても良い季節は12月から旧正月までの間であろう。
まず、気候が良い。年間を通して湿気が多い香港であるが、暑気のゆるむ10月下旬からは、五月晴れとでも呼びたいようなさわやかな青空が広がる。
何より、クリスマスの華やかさは、さすがイギリス統治の伝統と言おうか、アジア諸国に例を見ない。暮れにかけて、タキシードにイブニングドレスの正装の舞踏会も目白押し。(返還後もクリスマス連休はそのまま、伝統の不変が保証されている。)
12月に入ると早々とクリスマスデコレーションが軒並みビルを覆いだし、ことに趣向を凝らしたイルミネーションが、ビクトリア港をはさんで両岸を彩る様は、実に見事である。
新暦のお正月を過ぎると、ぼちぼちクリスマスから旧正月のデコレーションに衣替えする。オリエンタルムードをたたえたイルミネーションに早変わりする様は、洋の東西も総入れ替えみたいでおもしろい。
そして、買い物天国香港の面目躍如たるのも、またこの季節なのである。クリスマスが過ぎると商店街は一斉にバーゲンに入る。(景気が悪い年は、クリスマスを待たずバーゲンが始まるので、居ながらにして景気動向が実感できるというおまけも付く。)3割引から始まって半額、7割引とどんどん安くなり、私も入り用なものはすべてこの時期に揃えることにしている。
私が香港に居ついてしまったのも、本当のところは、たまたまこの麗しい季節にやってきて、夫(当時は他人)に誘われるままにテニスをしたり、ドレスアップしてディナーをしたり、に騙されたからではあるまいか、と今にしていぶかる私である。
さて、お正月用の晴れ着とおせち料理道具をトランクに詰めて引っ越してきたものの、香港の新暦の元旦はわびしい。こちらでは「農歴新年」と呼ばれる陰暦のお正月を盛大に祝う。唯一、東京だったらさしずめ六本木にあたる繁華街、蘭佳坊が、新年のカウントダウンにつめかける欧米人たちで賑わうくらいだ。翌朝はみんな酔いつぶれて寝ているので、閑散たることこの上ない。どうしても着たかったら大晦日に着込んでパーティーに行け、とつれない夫に、元旦は、暮れからあくせく仕込んだおせちを、普段着のままの婚家の面々とわびしくつまむこと度々。今ではすっかりお蔵入りしてしまった私の嫁入り道具である。
その代わり、旧正月は力が入っている。縁起ものの桃の木、水仙(両方ともお正月に満開になるように、よい木を選んだり、球根を手入れするので、主婦の腕の見せ所)、キンカン(「桔」の発音が「吉」と同じ)が家々を飾り、暮れの花市は大変な賑わいをみせる。農家にとってもかきいれ時のこの頃、花ほころぶ農家が軒を連ねる新界は、桃源郷さながらの眺めである。
大晦日には家族揃って、やはり縁起ものが並ぶ「団年飯」と呼ばれるご馳走を食べる。会社の忘年会にも必ず出て来るこれらの縁起ものは「好事発財(「濠 (牡蠣)・髪菜(もずく風の海藻)」と発音が同じ)」など、やはりお金がもうかりますように、という現金な願いが込められている。
明けると「拝年」という親戚回りに出かける。「恭喜発財」「花開富貴」などと景気の良い挨拶を交しながら、お年玉にあたる赤いご祝儀袋に入れた「礼是」を、子供ばかりか未婚の男女に配る。もらう一方の独身時代から一転して、結婚すると途端に懐が寂しくもなる。こういうときだけは、良い歳をしたやもめがうらやましくなる。そうそう、お年玉は普段世話をかけている目下の者、例えば、ビルの守衛さんとかにもあげる。
地味な日本のお獅子と違って、原色の派手な獅子舞いもやってくる。楽団のドラや太鼓の音も賑やかに、二人組みのお獅子は飛んだり跳ねたり立ち居振る舞いも派手である。香港では禁止されている爆竹が揃えば、文句無しの華やかなお正月である。
家族が揃って祝うお正月は、大陸出身の人達もみんな里帰り。お店もレストランも閉まってしまう。一ヵ月も閉める工場もある。観光客の足も自ずから遠のいて、ワーカホリックの香港がしばしゆっくりと骨休めするときでもある。
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