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農民高橋秋空思に思う
月刊ろうきん アジア新紀行「中国・香港編」
変幻自在な香港人
言葉における放任主義
大いなる香港人の胃袋
骨休めのお正月
香港住宅新事情
郷に入って君臨す?
読売新聞 YOMISAT 中国・アジア衛星版
リレーエッセー香港
 
ホスピス運動への共感
「環境」に通じる動物愛護
「無農薬園芸」の勧め
自然体でエコロジー
効率悪い電力消費
しらけムードの総選挙
鼻白むエコ空港
ベジタリアンのススメ
「大気汚染」解決に望み
養子を認める暖かさ
ローコスト育児のススメ
香港流子育ての矛盾
「牛乳騒動」利益優先にノー
朝日新聞国際衛星版
日曜倶楽部 香港PR版
香港の環境を考える
香港 安心食生活ガイド
 

 

読売新聞 YOMISAT 中国・アジア衛星版
リレーエッセー香港
1999年1月27日掲載

養子を認める温かさ

私ももうじき親になる。

 とは言っても、腹を痛めるわけではない。養子をもらうのだ。
 申請からマッチング(縁組み)まで一年ほど、法律上の手続きにさらに半年ほどか かるとは言え、世間が思うほどには成功率が高くなく、福音とばかりも言っていられない治療では保証しかねる「我が子」が、確実に授かる安心といったら! (体外受精の場合、子供に恵まれる夫婦の割合は1割強とされる。)

 思えば長い道のりだった。  幸い、これといった人種・性差別を受けずに来たが、子供がいない、の一点ではあ からさまな差別を受けた。
 仕事をすれば、キャリア優先の冷たい女。やめればやめたで、良くて怠け者、悪くすると子供嫌いのわがままな女、とレッテルを張られる。
 勇気を振り絞って、実はかくかくしかじか…と事情を明かせば、毎年年賀状に「子供はまだですか?」と書いて寄こす同級生。やり方がまずい、と実技指導に及ぼうとするオヤジ。人の身体(私は細身である)をじろじろ見ては、納得顔をする同性。
女ならばだれしも、自らのフェミニティ(女としての在りよう)が、アイデンティ ティ(人としての在りよう)に大きな比重を占める。
産む性として失格という烙印に、 存在の根っこのところがぐらりと傾ぐ。

 男の子が大事にされる中華文化圏に属し、大家族制度の名残を引きずる香港では、 跡取りが産めないだけでも相当のプレッシャーである 。自殺を企てる者が出るのも無理はない。
 リベラルな義父母に恵まれ助かったものの、野生が売りの私にとって、みみずだって、おけらだって、あめんぼだってすなる繁殖がかなわぬとは、「生き物として」背負った十字架の重さによろけた。
 まがりなりにもグレず(?)に来られたのは、自助グループの仲間達のお陰である。
香港も先進国の例に漏れず、今や六組に一組は欲しいのに子供に恵まれず医者の門を たたくという。それなのに、男女の自尊心を根底から揺るがしもし、社会制度の根幹 を成す家族の形をも揺さぶる不妊は、いまだにタブー視され、人々の口に上ることは 少ない。

 かくいう私も、グループの先輩に勧められ、エリザベス・キュブラー=ロス博士が 著した「死ぬ瞬間」を読み、死の受容五段階を経て、ようやく産めない自分と和解す るに至った。
子孫を残すという行為は、自らの命を未来につなぐ、いわば永遠の命を 得ることでもある。
不妊が生きながらにして体験する死であるゆえんだ。

 しかし、親となり「人として」の喜びを味わう道まで閉ざされたわけではない。
人格を形成するのは遺伝が3〜40%、残りは環境なのだそうだ。知性は90%までが遺伝 という説もあるが、これからの世の中IQよりもEQ、心の時代だ。産んでなんぼ、というよりも、育ててなんぼ、の親稼業と言えはしまいか。

 それにしても、感服するのは、キリスト教精神のなせる業なのか、西欧人の懐の深さである。  社会福利署の説明会に出たら、実子が三人もいるテニス仲間に出くわし、たまげた。
ご近所じゃ目や髪の色が違う親子もざらである。
しかも、中国人夫婦に比べマッチン グの優先順位が下がるがゆえ、障害がある子供を率先してもらう事情をさっぴいても、 彼らの愛の間口の広さには頭が下がる。
 私は決して西洋かぶれではないつもりだが、養子をもらうと言うと、往々にして珍 しい動物を見るような目で見る日本人に比べ、手放しで喜んでくれる西欧人に励まさ れることしきりである。
 基本的に努力しさえすれば何でもかなうとがんばり、それなりに報われてきた私の 人生にとって、初にして最大の試練。今の自分に鍛えてくれたと有り難く思いこそす れ、運命を呪う気持ちは不思議とない。

 ホルモン剤の副作用で身体はがたがた、出口の見えない治療を降りるに降りらずに いる同胞を思う時、レースの上がりはなにも血のつながった子供を産むことばかりじゃ ない、と養子の選択肢を用意してくれる社会の有難みをかみしめる。養父母の自助グ ループもそろっているし、なんだかんだ言って香港社会の深い懐のおかげを被ってい るのである。

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