第2 平成20年度分

2の2 市蔵か事

 A テキスト解説

原本は岩手県立図書館所蔵

和賀稗貫二郡見聞記(請求番号:新・38―3)の二巻に所収

 県立図書館のものは明治8年に高橋喜右衛門によって書写されたもの

  

この本はもともと花巻の給人「和田甚五兵衛」によって書かれた。

一巻から十巻まで合計百十六の話が載っている。この地方の様々な話題、言い伝えを納めている。かなり流布したと思われる、南部叢書に所収されている新渡戸維民の序からもうかがわれる。

 

著者について

和田甚五兵衛は花巻の給人ではあったが、禄が低かったので習字の師匠もかねていたらしい。文政七年歿。墓は円城寺。西公園の天神の境内に彼の筆塚がある。(この項は花巻の文化を高めた先人―佐藤昭孝著 によった。)

 なお、サブテキストとして、本由緒(花巻市立図書館所蔵)から、和田甚五兵衛の家系図及び彼の後妻の出自した佐藤家の家系図を添える。

 

「市蔵か事」をテキストとして取り上げた理由。

  高橋が偶々「二郡見聞記」(南部叢書版)を読んでいたとき、この話に出くわし、賢治の「よだかの星」に出てくる名前と同じである事に気がついた。

 そこで、賢治関係の研究書等の資料を調べたが、賢治の童話と、二郡見聞記の市蔵との関連を書いた物がなかった。早速、簡単にまとめて賢治学会に投稿し、採用されたので、紹介も兼て取り上げた。

 なお、松庵寺に実際に市蔵が埋葬されたことは、松庵寺の住職から、確認した。

B 本文

斯二郡見聞記ハ拾弐冊アリと云 著者ハ花巻御給人和田甚

五兵ヱト云習字ノ師匠ヲナシタル人ニテ文政七年七月廿六日  (1824年)

歿 年八十八諡シテ寿松院文山遁教居士 円城寺ニ葬ル   (おくりな)

 

    和賀郡

    稗貫郡 二郡見聞記  二

 

 

     二郡見聞記目次 第五

 

一 桜の明神事    一 八反清水

一 丸屋理右衛門   一 休斎か事

一 信楽寺怪異    一 柳のうなり

一 下町信泉寺    一 馬鹿松か事

一 市蔵か事     一 十二丁目市右衛門か事

 

 

  (中略)

 

      市蔵か事

 

一 宝暦年中の頃豊澤町染屋次郎八下人ニ市蔵とて    (1751〜1763年)

  年齢七十余才十二丁目生ニて妻子も無く壱人者也 仏神を

  信心し年中是非一度ツツ高山参詣欠事なし 中にも

  岩鷲山早池峰山釜石尾崎へは杉を植立候願有也

  とて毎年春の内杉苗を持運也 此者大酒を好ミ一銭

  の貯のなけれとも高山江毎年参詣する者也とて

  尊キ人に諸人云成し 其頃は酒壱盃拾壱文の節右

  いつれの酒屋にても市蔵江気侭ニのませ 酔て過

  言有とても尊キ人江構ふ事なけれ とてあらそう

  人なし 酔て臥時は堂社墓所抔に臥し家ニつれ帰

  らんとすれど大磐石の如にて不動 風雨雪等の

 

  節も病と不成七日八日も臥居也 其内ハ酒の香りあたりに満

  わたり 酔覚て家に帰る時何方江行たりと問は羽黒

  山又は鳥海山或は松前臼ヶ嶽江も行たり抔と云也 其山

  〃有様を聞に寔に見たる如し 又喰物の事を尋ける   (まこと)

  に其子細を知らす 宝暦十三年五月例之通岩鷲山    (1763年)

  江参詣せんとて五月廿二日ニて行けり 毎年参詣之者故

  柳沢別当にても小遣にそ頼ミけり 此者酒好ゆへ廿五日大小遣銭を得る為の仕事をすること)

  酒いたし参詣 往来の道端に臥居たり 其頃又川口町

  横丁久保屋善右衛門子善蔵も為参詣の豊沢町勘太を

  供ニして柳沢至り市蔵か臥たを見 此者兼て善右衛門か家ニ

 

  ても召仕しもの故立留り起しけるに生躰なし 無詮方先ツ

  登山し下山の時漸〃おき居たり 直々連立帰らんと云けれハ

  持道具失ひたり 其品を問に風呂敷包袷壱ツ銭三百文

とそ 往来の道端なれハ中々可尋手掛りなしとて善蔵と

とも帰りけり 善蔵幼少故駄賃馬乗帰り 馬継の所にて

大替参詣乗替の所ゆへ大キニ混雑しける内ニ 善蔵乗

たる馬方駄賃銭も不取行方知れす 小附ニ付たる銭大荷物の上に、さらにつける小さい荷物)

財布持たり失たり 供の勘太大キに驚き馬の帰りし

方江追かけ 段々来る馬方共ニ其者の様子咄し聞

けるに 最少し先キ立行たり 右の者ハ向ふニ見る

 

林の内破風の見ゆる日向前の家ニて煙りの立し家也 行て見玉へと

教にまかせ行其家に至り 庭の口より入て見るに老女壱人

馬のうちかいして居たり 勘太其次第を以馬方を尋けるに  (餌を与える)

老女 右の者只今後の方江行たり 右の次第ニては中々呼ても

来るまし 扨〃笑止千万也 しかしなから只今戻ると其箱

の内江何やら投入たり 見玉ひ とて見せけるに相違もなき

品なりとて取出し 老女申けるに 昨日も何やら風呂敷

包持来る 定てあれも左様のいたつらニて持来る成べし

とて見せくるに 則市蔵が失ひし風呂敷包 内を見るに

袷也 勘太市蔵か着用兼て能しりたれは見して

 

三百文銭の有事を証拠して老女ニ談し持帰りたり 老

女大聲上けて啼しとそ 誠に岩鷲山大権現の御利生

の程難有しとも云はかりなし 右市蔵 次郎八か家ニ

て病死せり 八十余才末期いかにや 当時次郎八家若キ者

斗にて其末期を知りたる人なし 松庵寺葬とそ

 第1  平成19年度分
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