発信No.12

平成1年1月30日

岩手のラべルは

関係者(防火対象物、点検業者、消防の予防行政)の
レベルアップにつながるか

◎“消防用設備等点検済表示制度”は今、うまく機能しておりますか?
◎実効が認められますか?

点検業者だけの経費負担増につながるこの制度のすすめ方に異議を唱えます

 この制度の目的には、非常に立派で良いことずくしで書かれていますが、2年間が経過しようとしている現在、果たして当初の思惑(効能書き)どおりになっているのか。点検済表示制度の目的として、制度普及要綱(H3.5.1)→・制度推進要綱(H8.4.1)によれば次のように記されております。

A 防火対象物の関係者側として
適正な点検の励行に対する認識を高め、消防用設備等の適正な維持管理の徹底及び点検報告の励行に寄与する。

B 点検業者側として
点検を行った者が法令に基づき適正な点検を行った証として、ラベルを消防用設備等に貼付することにより、点検実施についての責任を明らかにする。

C 消防側として
ラべル制度が活用される場合において、点検が適正に実施されていると認められるときは、つぎのような取扱いを行うことができる。
・消防用設備等の点検結果報告書の事務手続きの簡素化
・防火対象物に対する立入検査時における消防用設備に係る基準との適合確認をラべルの確認をもって代える等の簡素化を行うこと

 平成8年4月1日の「消防用設備等点検済表示制度推進要綱」によれば、「普及要綱に基づき実施している保守協会にあっては3年問の経過期間を置く(平成11年4月1日から)こととした。とあるが、岩手では強引とも思える手法で平成9年4月1日からスタートさせてしまった。
 しかも、このとき行政(県消防防災課)が介入し、防災保安協会の運営上の間題点解決をめざす形で、受け皿組織としての防災設備協同組合設立をも同時進行させてしまいました。
点検業者やその他関係者との間に論議の場があたえられないまま、協会(日本消防設備安全センター)からの資料説明を“権威づけるため”に行政が先導役をつとめるような進め方は、いかがなものかと思ったものでした。ちょうど、2年前です。このときから私は危倶を覚えたのですが、同業者の皆さんはどのように受け止められたのでしょうか。
 これまでの間題点、その他私なりの持論を述べてみたいと思います。

Aについて


昭和52年以来国で定める「点検制度」により、当時から点検を実施し、一定期間毎に報告している防火対象物の所有者・管理者の皆さんには当然のこととはいいながら、敬意を表するところであります。

 これら防対関係者にとっては、今さらラベルを貼ろうが貼るまいが、すでに委託している点検業者にまかせているという気持ちがあります。
点検業者を信頼し、適正な点検をしているという意識があります。仮に点検担当者に不信感をもつことがあったとしても、おおむね会社を信頼しトラブルがあればそれなりに解決して点検実施を継続しているものと思います。
 ラべルのことだけで「点検報告の励行に寄与する」などとは、ほとんど思っていないのです。その防火対象物の従事者、あるいは出入りする不特定の人達もラべルを見て意識を高めるものなのでしょうか。ほとんどは、無関心であります。
ラべルを見るのは点検同業者か、消防関係者位のものだと思います。これは、ほぼ断言できると思います。
 防火管理担当者ですら、ラべル制度というものを認識していない状態では「この制度の活用」はまだ入ロにも入っていないといわざるをえません。未点検、未報告の防火対象物の関係者にこそ行政側が、そして協会等がその実施を啓蒙啓発しなければならないのに、すでに実施している防対にラべルを貼ることが実施率の向上にどれほど効果があるものか、おかしな話であります。
(例えば、何かの定例会議にいつも欠席している人がいるとした場合に、出席者に対してだけ「出席率の向上をはかるため、よろしく」といっているようなものである。常習の欠席者をいかにして出席させるかが、関係当事者の役割であり責任なのである)この制度では、防火対象物の関係者が自ら点検する場合(1,000平方メートル未満で防火管理者等が行う)は「点検業者以外の者用」のラベルを貼ることになっておりますが、防対関係者がどの程度の理解とやる気をもつのか期待がもてません。
 防対関係者は、このラベル制度についてほとんどつんぼさじきの状態なのだから、理解も協力もあったものではないとするのが実状と思うのです。
この制度の普及・推進をはかるなら、ある程度の時間をかけて防対関係者にPRすることが最も大切なところであります。
 特に公的な建物の防対関係者に対しては、消防などの公的機関や協会等がアンケート調査や、ラベル制度に対しての啓蒙を図り、適正な点検のためには適正な点検料金(ラべル代金の一部負担なども含めて)が不可欠な条件でもあることを働きかけるなど、当然行われて然るべきものが未だにありません。このような状態では、この制度の発展は望めそうにありません。

Bについて


 協会が進めている統一デザインのラべル貼付は点検業者にとってメリットがあるのか。このラベルを貼るだけで、点検についての責任を明らかにすることになるのか。

 岩手の点検業者のほとんどは中小、零細企業又は個人営業であります。そして、それを本業としているか、工事を主力にしているか、販売を主力にしているかなどそれぞれ業態も違うはずであります。
ラべル制度に対する認識も違うのは当然であります。
 ラべル登録申請には、点検工具の賃貸契約書の写しとか業務提携先一覧表などの書類が必要となっておりますが、これさえあればどんな業者でも登録される、されているという実態。その業者が実際の点検のとき、工具や人間を借りてきて仕事をしているものか疑間に思えます。どこからみても一定レべル以下の業者でも協会のラべルを貼っておれば「適正な点検を行った証」となることには賛成できません。
 これまで消火器等に貼ってきたラべルは各社独自のもので、これは点検会社としての宣伝を兼ねて、点検実施の確認のために貼ってきたもので、点検年月日も4〜6回位記入できるようデザインされ合理的なものであります。今のラべル制度では、どうしてこれを1回毎に剥がしたり、貼ったりしなければならないのでしょうか。
しかも、次期点検予定年月まで記入(小さな文字で見えにくい)するなどは、わずらわしいだけで「責任を明らかにする」としたラべル制度の目的には、効果がうすいといった方がいいでしょう。
 統一デザインのラべルを貼れば、自分の会社は格上げされたと信じている経営者や点検担当者はいないはずであります。
最も大事なことは誠実に適正な点検を行うことであり、本来はラべルを貼っても貼らなくてもよいことなのであります。
 このようなラベル制度が策定される背景のひとつに、我々点検業者のモラルや資質の低下もあげられるわけで大いに反省すべき点もあるのであります。
点検料金の値引き競争の結果、はたしてこの料金で適正な点検ができるのかと疑うような金額でやっているのが実情であります。点検料金の値下げは点検作業人員の減員、作業時間の短縮などにつながり、むしろ不適正な点検になる恐れがあります。
売上げ目標金額を達成するため、点検物件数の確保と無理な日程を組まざるを得ないなど当然考えられます。料金を安くして、不必要な部品交換や何かロ実をっけて修理や工事を行うということも考えられます。
過去において確かに、こうした同業者が存在したことを私は知っております。
このことは、防対関係者を裏切ることであり、業界全体の信頼を失墜させるものであります。適正な点検を行うには点検者の資質を高めると同時に、適正な点検料金をいただくことも当然の条件といわざるを得ません。
 点検業者として不信を抱かれないようお互いにえりを正し、我々に課せられた社会的責任を果たさなければなりません。

Cについて


 消防機関はこのラべル制度について、どのように考え指導しようとしているのか。ラべル制度活用は、消防行政に効果があるか。

 平成9年度当初から県内各消防機関の予防係担当者は、防災保安協会からのラべル制度についての資料送付を受け、又県の担当課からもこの制度の推進を行うべく通知等を受け、いよいよ書類の簡素化等対応を余儀なくされました。
 しかし、この制度活用を理解し、本気で勉強し(業者との協議などを含めて)取り組もうとした職員は全体の何%位いたでしょうか。ス夕ート当初、消防署によって対応が違ったということを聞いております。
 当初は、やむを得ないことでもあったでしょうが、2年を経過しようとする現在、ラべル制度の活用の“成果”は上がっているのでしょうか。情報公開の一つとして、ぜひ公表してもらいたいものです。
 各消防機関では防災保安協会から出された書類の内容と、県当局から出された書類の内容とを混同したりしたことはなかったでしょうか。たとえ、県からの通知であっても各消防長の判断によって決することができる事項があるわけだから、独自性とか主体性をもって対応する弾力的行政があってもいいと思うのです。
 前例があるかどうかにこだわらず、プラスになるものであるなら明快に判断をするべきであります。それが市民、県民、国民への最大のサービスになると思うのです。ラべル制度が絶対的に良いものであるなら点検業者や防対関係者を強力に指導して、その活用をうながすべきであります。
 しかし、これまでそのような気配すら感じられないのは、やはり「行政の良識」と私は受けとめており、いたずらに点検業者だけをいじめるようなことには加担しないでほしいと思うのであります。消防機関はいつも公正であるベきで、これはいうまでもありません。ラべル制度が強化されれば一体誰が得をし、反面誰が損をするか、論議の場がほしいものであります。
 さて、この制度の活用により書類の簡素化のほかに「防対への査察の際、設備の確認などは、ラベルを確認するだけで簡素化が出来る」とありますが、これはとってつけたようなもので消防関係者への“媚”ではないか、と許せる気持ちにはなれません。若い消防職員への教育のため、あるいは経験を積ませて資質を高めさせるという意味で、本来の立合い検査や査察などはあまり省略するベきではないと思います.
 行政は、国民全体が利益となるように考え指導してほしいものであります。縦割行政の弊害、裁量行政の弊害は昨今中央省庁で問題になりました。消防行政においては、よもやそうゆうことはないと思いますが、常に国民の安全、災害予防を第一に考えてほしいものであります。


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